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大『助手』論 技術編 サクションvol.4 ~吸~(1)

やっとサクションの王道、『吸う』ところまでたどり着けた。サクションは吸うための道具であり、それこそが本職。

血液のない奇麗な術野で仕事をするのは誰でも気持ちがいい。ところが、特に人工心肺中に血液が術者に止めどもなく現れるのは、ベントを含めて脱血に問題があるか、送血管や脱血管の挿入部に問題がある事が多い。論理的には人工心肺中は無血野にできるはずである。無血野になるかどうかは執刀医の腕次第とも言える。しかし、実際は側副血行路や、脱血の具合で無血野にならない事も多い。執刀医もコンロールできない事が多い。執刀医がどうにもできなくて困るところを助ける、まさに助手としての醍醐味を味わえるのが『吸う』ことだと思う。

どの程度までの血液が術野にあることを許容するかは、執刀医の性格と手術の場面によって変わってくる。もちろん、血液のまったくない術野をいつも保持できる事が理想だが、血液を吸う事だけに夢中になって手術の進行を妨げるような動きは本末転倒だし、血液があることよりも周りをちょろちょろ動かれるほうが気になる、という人もいる。一概に、こうすべきだ、と言えないのもこの『吸う』作業を奥深いものにしている。実際は、執刀医や場面にあわせて吸い方を変えるしかない。そのためには、その手術そのものをよく知る事、と、執刀医が前回同じような場面で何を望んだのかを記憶しながら、その場面における『正解』をきちんと持っておく事がとても大切なことだと思う。

無血野がいつも正しいとも限らない。ごくわずかに手術の場面では、『吸ってはいけないとき』もしくは『吸いすぎてはいけないとき』がある。例えば、ASDを閉じて左心系の空気を抜いているとき、など。これはそんなに多くないので、『吸ってはいけないとき』もしくは『吸いすぎてはいけないとき』をしっかり把握する。

さて、『吸う』時によく知っておかなければならないもう一つの事は、自分の使っているサクションことである。これは以前にも書いて重複するが、もう一度改めて確認しておきたい。サクションには、よく吸える場所、とよく吸える角度が必ずある。これをよく知っておく。もっとも効率よく吸える吸い方をきちんと把握しておく。逆にあまりよく吸えないやり方も知っておく。これは、サクションの形状の観察も必要だが、実際に吸う事でどの吸い方がよく吸えるかを毎回観察することも大切だ。こちらは同じ角度、同じやり方でも、組織の角度や状況でも違ってくるので、まずは、術野で、血液や組織の位置と執刀医や1助手の道具の関係性や手術の展開のなかで、最も効率よく『吸える』やり方を把握する。

そして、それらに応じて自分の位置からいかにサクションを正確にイメージ通りに運ぶかを常に意識しておく。術野と自分までの空間の直線を、ほかのそれぞれの『視野の空間』や『作業の空間』に交わらないように正確に引いて、そのためにサクションをどうもってどう動かせばいいのかを、イメージして実践して反省して修正する。イメージして実践して反省して修正。これを繰り返し、理想へと近づけていく。










大『助手』論 技術編 サクション シリーズ
vol.1 ~最高のSuctionist/サクショニストを目指して~
vol.2 ~サクションを改めて見てみる~
vol.3 ~サクションで仕事をする前に知っておくべき一番大切な事~
vol.4 ~吸~(1)
vol.5 ~吸~(2)


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このブログの登場人物
A教授:この病院のボス。手術中の紳士的な態度もさることながら、普段の笑顔も素敵。 H先生:A教授と同じ立場のボス。手術中は吠える鬼神に化す。手術を離れるとびっくりするくらい温かい人。実はいろいろな人のことをよく考えているのはこの先生。スロバキア人。 心臓先生:定年まじかのベテラン心臓外科医。みんなの指導医で、論文の数も凄まじく、統計処理も天才的。アフリカのブルンジ人。 J先生:兄貴のような執刀医。明るくて楽しいのだけど、感情の起伏が激しくて手術中は叫びまくることも。でも、その次の瞬間には笑っている。ギリシャ人の血をひくドイツ人。2012年の8月からベルリンの小児心臓外科のボスとして赴任。 C先生:推定年齢45~48歳の女医さん。だれも本当の年齢は知らない。長くこの病院に勤めていて、J先生の去った後、ようやく執刀医の位置に。ドイツ人。 L先生:J先生の後がまで赴任してきた先生。アメリカで修行した経験あり。ドイツ人らしい慎み深いいい人。 P先生:30歳の唯一の若者。元気でいい奴だけど、ちょっと性格が悪く看護師さんからは嫌われていたりいなかったり。H先生と同じスロバキア人で、H先生の保護下にいる。やや過保護?! D君:元々はスクラブナースだったけど才能を見いだされて手術アシスタントに。
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Author:遮断鉗子
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小児心臓外科医(35歳 心臓外科 10年目)のドイツ留学記です。
2010年7月からドイツに。

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