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なりゆきの論文教室〜1時間目〜 なりゆきのなりゆき(前編)

このブログを書いてない数ヶ月の間。ぼ〜っと過ごしていたかというと、それは半分だけ当たっている。なぜ半分かというと、この5月までの間にヨーロッパで開催される大きな国際的な学会と、ドイツで最も大きな小児循環器学会の演題の締め切りが集中するからだ。

お医者さんのいう学会というのは、医療者が一カ所に集まって自分たちの仕事の結果を発表しあう場所で、そこで発表するには締め切りまでに抄録と呼ばれる発表の要約を提出する必要がある。学会には通常数日間の期間が決まっていて、発表できる人数や発表の数はおのずと制限される。大きな学会では規定数以上に発表したい人がたくさんいるので、締め切りまでに抄録を提出して選考を受ける。言い換えると、スポットライトを浴びるためにオーディションを受けるのが通常の手続きになっている。

この発表の要約である抄録の書き方はいろいろあるのだけど、僕のいる病院では要約を書く時点ですでに論文が書けるほどの完成したデータが要求される。要約を書くためにはまずは論文を書く必要があって(だって、要約はなにかをまとめるから要約であって、なにもないところに要約だけが存在すると言う事は、卵がないのにニワトリが生まれてくるくらいおかしい)、そのためには当然データは完成されるべきだ、というのが暗黙の了解になっている。当然と言えば当然なのだけど、これはやってみるとなかなか難しい。なぜなら、このデータを完成させるという作業には膨大な時間がかかる。

僕のいる病院では、まずボスが学会の半年以上前に、今度の学会ではこういうテーマの発表をしようと宣言して、それぞれのテーマに関わるチームのメンバーとその責任者を決める。そして、メンバーは自分が毎日やっている治療や検査のなかで、もしかしたらこうかもしれない!とか、こうすればもっと良くなるかもしれない!という仮説を立て、それに関する論文を読み、他の人がどう思っているかを調べ理解し、自分の立てた仮説を証明するためにどんなデータが必要か考え、実際のカルテや記録から必要なデータを地道に地道に拾い上げ、それを基に統計を利用して数字を出す。そして、そうした上でその数字が意味があると判断された場合のみ、そのデータが世に出るチャンスを得る。ここまでやってこの数字に意味がないと判断されれば、いままでの時間も労力も全部無駄ということになる。データに意味があっても、ボスに提出してボスがだめだといえばボツ。いくばくかの愚痴と出来たデータと一緒に、今までついやした時間と労力はゴミ箱に捨てられる。またはじめからこの作業をやりなおさなくてはいけない。そういうことは、よ〜くあること。さて、ここまではまだまだ基礎工事にすぎない。この後、得られたデータを利用しながら、仮説から結論に至るドラマチックなストーリを考えて論文を書いていく。この作業をして始めて、基礎の上に家を建てられることになる。最後に、抄録を書いて学会に提出する。これは、建築雑誌に投稿するために完成した家の奇麗な写真を撮って加工する作業に似ているかもしれない。この完成した家の写真を、この病院は学会の抄録締め切りまでに要求する。


謙遜して言うとただの自慢にすぎないのだが、国際学会のために2つの抄録を書き、1つの統計処理を、ドイツの学会のために3つの抄録を書き、2つの統計処理をした。しかも、学会に関係ない論文をひとつは若い先生のために、もうひとつは自分のために書きながら、だ。




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このブログの登場人物
A教授:この病院のボス。手術中の紳士的な態度もさることながら、普段の笑顔も素敵。 H先生:A教授と同じ立場のボス。手術中は吠える鬼神に化す。手術を離れるとびっくりするくらい温かい人。実はいろいろな人のことをよく考えているのはこの先生。スロバキア人。 心臓先生:定年まじかのベテラン心臓外科医。みんなの指導医で、論文の数も凄まじく、統計処理も天才的。アフリカのブルンジ人。 J先生:兄貴のような執刀医。明るくて楽しいのだけど、感情の起伏が激しくて手術中は叫びまくることも。でも、その次の瞬間には笑っている。ギリシャ人の血をひくドイツ人。2012年の8月からベルリンの小児心臓外科のボスとして赴任。 C先生:推定年齢45~48歳の女医さん。だれも本当の年齢は知らない。長くこの病院に勤めていて、J先生の去った後、ようやく執刀医の位置に。ドイツ人。 L先生:J先生の後がまで赴任してきた先生。アメリカで修行した経験あり。ドイツ人らしい慎み深いいい人。 P先生:30歳の唯一の若者。元気でいい奴だけど、ちょっと性格が悪く看護師さんからは嫌われていたりいなかったり。H先生と同じスロバキア人で、H先生の保護下にいる。やや過保護?! D君:元々はスクラブナースだったけど才能を見いだされて手術アシスタントに。
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遮断鉗子

Author:遮断鉗子
心臓外科医のブログです。
小児心臓外科医(35歳 心臓外科 10年目)のドイツ留学記です。
2010年7月からドイツに。

毎日の手術の事を中心に。ドイツビールの紹介もしていきます。

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