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なりゆきの論文教室〜2時間目〜 なりゆきのなりゆき(後編)

謙遜して言うとただの自慢にすぎないのだが、国際学会のために2つの抄録を書き、1つの統計処理を、ドイツの学会のために3つの抄録を書き、2つの統計処理をした。しかも、学会に関係ない論文をひとつは若い先生のために、もうひとつは自分のために書きながら、だ。

僕はどちらの学会の開催日にも既にアフリカにいる事になっているので、どの発表も発表者になれないし、どの研究の責任者ではない。おおむね責任者というのは若い先生がなるのだけど、若い先生は全くこのあたりの方法論を知らないから、だれかがこの若い先生を指導しながら進めて行くことになる。その監督役が、今年は僕に集中した。それは、僕が認められたからでもなく、ましてや優秀だからなんて全くそんなことはなく、今までそれをやってきた心臓先生が全部放棄したからで、残念ながら統計処理ができるのは僕しかいなかったせいもあり、水が自然に低い方に流れるように、当然のように全部僕にまわってきただけの話だった。しかも、心臓先生が放棄したのが締め切りのついひと月前で、それぞれの責任者も心臓先生がなんとかしてくれるよと淡い期待があり、何も着手しない状態で締め切りはもう目の前に迫っていた。責任者の顔は青ざめて、H先生の額にはくっきりと怒りの青筋が浮かんでいた。そういう訳で、やや青みを帯びた多量の冷たい水が、一番低い僕のところに濁流になって押し寄せた。

僕は、それぞれのテーマについて、仮説を立て、調べるべき必要な項目を挙げて、表をつくり、お願いだからこの表にカルテからデータを拾って数字を埋めてくれ、とその責任者の先生にお願いして、その得られた数字を使って統計処理をして、あれやこれや時には怪しげな統計的手法を駆使して意味のある数字を見つけ出し、データを完成させて論文の主要な部分(discussionは責任者の先生に書いてもらう事にしている)をざっと書いて、抄録を完成させる。ここまですれば、学会までの間に責任者がゆっくりと論文を仕上げ、発表用にスライドをつくればいいだけとなる。

圧倒的に時間がかかるのは、カルテや記録からデータを拾い上げる作業だ。実はこれが一番大事なのは誰の目にも明らか。これがないとどんなよいアイデアがあっても何にもならないし、これがないと何も始まらない。このデータを元に統計処理をして論文を書いてしまうためには、日中手術をしてからでは、睡眠時間をぎりぎりに減らしても最低3日はかかる。さらに、ボスに見せたり訂正を加える時間がどうしても2、3日必要。悪いことに、どちらの学会の締め切りもその前に週末が挟まっていた。週末が挟まるというのは、日本人としては、やった!!一日中この仕事ができる!!と喜ぶところだが、ここはドイツ。残念ながら、金曜日の午後から全店休業となり、締め切りが迫っていても、だって週末だもんねとこの仕事をしない若い先生もいるので、作業がストップすることを覚悟しないといけない。だから、最低でも締め切りの1週間前にはデータを拾い終えてくれと、若い先生に頼むのだけど、締め切り前にならないとおしりに火がつかないのはドイツ人も同じで遅々として作業が進まない。毎日、毎日、ねえ?ちゃんと進んだ?と聞くと、若い医師のくせにあからさまに嫌な顔しやがるし、オヤジの友達のねえさんが病気でそのねえさんに食べさせるために魚を捕まえる人を見ていたから時間がなかった的な言い訳ばかりしやがるし。くそ〜っと思いながら、思い通りの数字がでなかったらどうしようという不安を抱えながら数字だけ埋めればいい論文をせっせと書いてしまったあとで、締め切りの前の一週間は統計漬けになりながら、なんとかこの洪水を乗り切った。

この怒濤の数ヶ月を過ごした後、2つのかすかな変化があった。1つは、今まで、なに〜このへんな日本人〜的な目つきでみていた若い先生の僕に対するまなざしにほんのかすかに尊敬が混じるようになったと僕が勘違いしていること。もう1つは、心臓先生も僕もアフリカに行ってしまった後にこの仕事をする人がいなくなるという事実に何人かがようやく気がついたことだった。





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遮断鉗子先生

まず、一言!
統計教えてくださーい(笑)

頑張ってらっしゃるのですねー!
ほんと、尊敬の眼差し☆

普段のバタバタ抄録とりあえず書いて…っていうのより、大変でしょうけど、このやり方の方が、意義ある研究、意義ある論文になるのでしょうねえ。

見習わなきゃです!

遮断鉗子先生のこの努力が、子どもたちを救い、医療をより進歩させていかのだと、確信しました!

これから、みな、困るのだろうなあ~。大変そう…

Re: タイトルなし

ayamigoさん、コメントありがとうございます!!

医学統計に関して言うと、知らないといけないところは限られているので、そこだけ勉強すればいいですよ〜。

僕たちのやっていることがどのくらい医療に貢献しているかというと、ほんのちりのようなものでしょうけど、ずっとやり続けて少しずつそれを積み上げていくということが大事なのかもしれませんね。


また、気軽にコメントお願いします!!
このブログの登場人物
A教授:この病院のボス。手術中の紳士的な態度もさることながら、普段の笑顔も素敵。 H先生:A教授と同じ立場のボス。手術中は吠える鬼神に化す。手術を離れるとびっくりするくらい温かい人。実はいろいろな人のことをよく考えているのはこの先生。スロバキア人。 心臓先生:定年まじかのベテラン心臓外科医。みんなの指導医で、論文の数も凄まじく、統計処理も天才的。アフリカのブルンジ人。 J先生:兄貴のような執刀医。明るくて楽しいのだけど、感情の起伏が激しくて手術中は叫びまくることも。でも、その次の瞬間には笑っている。ギリシャ人の血をひくドイツ人。2012年の8月からベルリンの小児心臓外科のボスとして赴任。 C先生:推定年齢45~48歳の女医さん。だれも本当の年齢は知らない。長くこの病院に勤めていて、J先生の去った後、ようやく執刀医の位置に。ドイツ人。 L先生:J先生の後がまで赴任してきた先生。アメリカで修行した経験あり。ドイツ人らしい慎み深いいい人。 P先生:30歳の唯一の若者。元気でいい奴だけど、ちょっと性格が悪く看護師さんからは嫌われていたりいなかったり。H先生と同じスロバキア人で、H先生の保護下にいる。やや過保護?! D君:元々はスクラブナースだったけど才能を見いだされて手術アシスタントに。
プロフィール

遮断鉗子

Author:遮断鉗子
心臓外科医のブログです。
小児心臓外科医(35歳 心臓外科 10年目)のドイツ留学記です。
2010年7月からドイツに。

毎日の手術の事を中心に。ドイツビールの紹介もしていきます。

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