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『チーム・遮断鉗子』物語 (3)

彼女はいつもびくびくしていた。それに、外国人の僕のことをとても警戒していた。無理もなかった。今まで同じように外国人のP先生と一緒に手術に入った時は、悪いことは全部彼女のせいにされていたので、こいつも何かあったら自分のせいにするんじゃないか、という猜疑心でいっぱいだったし、それだったら何もしないほうがいい、と思っていたと、つい最近になって教えてくれた。

最初のうちは、お互いに観察しあっていた。開胸も閉胸も僕はずっと一人でやっていたので、基本的に助手はいてくれた方がいいに決まっているけど、いなくてもどうにかなる。術者がきた後も、そもそも2助手無しの1助手だったので、2助手がなにもしなくても成立する。だから、Iさんがなにもしなくても、これをしろ、あれをしろと全く言わずに、ずっと待っていた。たまに、手術している子の病気について教えたり、どうでもいい世間話をしながら、ずっと待った。ある日、Iさんがピンセットを持って組織を持ってくれた。『ありがとう!!よく見えるよ!!』と言うと、彼女はちょっと嬉しそうだった。それから、『ここもって』とか『こうして』と頼むと、やりにくそうに、だけど一生懸命手伝ってくれるようになった。酷くやりにくそうにやるので、どうして?と訊くと『P先生がそうしろって言ったから』と。僕とやる時はそれはいったん忘れてやりやすいようにやってごらんよ、と言うと、彼女はすこしずつのびのびと仕事をし始めた。

はじめのうちは僕も意識して誉めていたけど、このIさんはもともとセンスも良いし良く気がつくし丁寧だし、そのうちぼくのやりたいことをちゃんと理解して先回りしてやってくれるので、思わず『ありがとう!!いいね!!』と言ってしまうくらいの動きをしてくれるようになった。

彼女がのびのびと動けるようになってから、日本でもやっていたけど、閉胸の時に手術の反省会をはじめた。閉胸で術者が手を下ろした時に、スクラブナースも含めて、どうやったらもっと良くなるのかみんなで話し合った。僕は自分のことは、あそこは悪かった、ここはこうすべきだったと言うけど、Iさんのことは、たくさん誉めてあげた。あそこはよかった、ここはよかったと良かったところをたくさん見つけて、なぜ良かったのかもへたくそなドイツ語で説明してあげた。通じているかどうかわからないけど、こんな時にこんなことをするのは良い事なんだ、ということはなんとか伝わったみたいだった。そして手術中にIさんがやったことでH先生に怒鳴られたりしたことは、そういう時はこうやった方がいいんだよ、とちょっとだけコツを教えてあげた。彼女はもともと勘もいいので、どんどん吸収していった。

何より、たまにしかない僕とあたる手術を楽しみにしてくれているみたいだった。

そうこうしているうちに、彼女は手術中も積極的に手をだすようになって、1助手の僕は今までやっていた2助手の分の仕事がなくなり、今まで以上の助手をすることができるようになった。2人で3人分くらいの仕事ができるようになってきた。僕は絶対に1助手しかできないこと以外は、どんどん彼女にやってもらうようにして、僕はあいた手で、もう少しこれをしたら良くなるのに、と思っていたことができるようになり、今までにない視野の展開や助手ができるようになっていた。

この変化を最初に気がついたのは、H先生だった。H先生は、直接はなにも言わないけど、僕とIさんのコンビで助手をすることが増えてきた。最初は、どちらかといえば軽症例が僕とIさんで、重症例がP先生とIさんだったけど、それがそのうち逆転した。そうなると、H先生の要求もどんどん高くなり、いままでは我慢してきたことも文句を言うようになった。最初は、Iさんはそれに面食らってまた落ち込みそうになっていたけど、そうじゃなくてこれは認めてくれたからこその要求なんだと教えてあげると、彼女のゲルマン魂に火がついたのか、より前向きな姿勢で仕事をこなし、こちらの想像を超えるよい動きもするようになった。

H先生がやややりにくそうにして、僕もどうしようもないところがあった。H先生も僕がどうにもできないことがわかっている時は、絶対に何も言わないで我慢してやってくれる。そんな時、Iさんが上手に手をだして、とてもやりやすい視野を作った。それは、僕も、きっとH先生も想像していなかったことで、同時に二人とも、

『すごい!!いいよ!!』

と思わず叫んでいた。



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このブログの登場人物
A教授:この病院のボス。手術中の紳士的な態度もさることながら、普段の笑顔も素敵。 H先生:A教授と同じ立場のボス。手術中は吠える鬼神に化す。手術を離れるとびっくりするくらい温かい人。実はいろいろな人のことをよく考えているのはこの先生。スロバキア人。 心臓先生:定年まじかのベテラン心臓外科医。みんなの指導医で、論文の数も凄まじく、統計処理も天才的。アフリカのブルンジ人。 J先生:兄貴のような執刀医。明るくて楽しいのだけど、感情の起伏が激しくて手術中は叫びまくることも。でも、その次の瞬間には笑っている。ギリシャ人の血をひくドイツ人。2012年の8月からベルリンの小児心臓外科のボスとして赴任。 C先生:推定年齢45~48歳の女医さん。だれも本当の年齢は知らない。長くこの病院に勤めていて、J先生の去った後、ようやく執刀医の位置に。ドイツ人。 L先生:J先生の後がまで赴任してきた先生。アメリカで修行した経験あり。ドイツ人らしい慎み深いいい人。 P先生:30歳の唯一の若者。元気でいい奴だけど、ちょっと性格が悪く看護師さんからは嫌われていたりいなかったり。H先生と同じスロバキア人で、H先生の保護下にいる。やや過保護?! D君:元々はスクラブナースだったけど才能を見いだされて手術アシスタントに。
プロフィール

遮断鉗子

Author:遮断鉗子
心臓外科医のブログです。
小児心臓外科医(35歳 心臓外科 10年目)のドイツ留学記です。
2010年7月からドイツに。

毎日の手術の事を中心に。ドイツビールの紹介もしていきます。

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